ドイツ出身の現代美術家アンゼルム・キーファーは、歴史、神話、宗教、文学といった壮大なテーマを作品に織り込むことで知られています。絵画や彫刻だけでなく、鉛、藁、灰、写真など多様な素材を用いて、「記憶」や「時間」、「破壊と再生」といった人間の根源的な問いに迫る作風が特徴的です。第二次世界大戦後のドイツに生まれ育った背景もあり、彼の作品には常に歴史の重みと、個人と社会の記憶に向き合うまなざしが流れており、様々な問題提示をしてきました。そんな彼の展示「Solaris」が京都・二条城で開催されるとのことで行ってきました。
タイトルを見たとき、すぐに思い浮かんだのはタルコフスキーの映画『惑星ソラリス』でした。個人的にも大好きな映画です。実際に展示を巡ってみると、色合いや素材感、そして時間や記憶、喪失、罪といったテーマが随所に感じられ、映画『ソラリス』の世界と重なるような感覚があったのですが、この作品を見てやはり!となりました。
“Harry”とは、映画に登場する主人公の亡き妻ハリーの名前。失われた存在との再会、それにまつわる後悔や痛み、許されない罪…キーファーの作品と惑星ソラリスが完全にリンクしました。『惑星ソラリス』では、ソラリスの海が人間の無意識を読み取り、喪った存在を再現します。けれど、その存在ーたとえばハリーは、完全な再現ではなく、”誰かの記憶にあるイメージ”でしかない。ハリーは自分自身が何者なのかもわからず、存在する理由すら知らないまま、苦しみ続けます。そこには、人間の記憶が抱える「不完全さ」や、「失われたものを取り戻せない悲しみ」が象徴されています。キーファーの作品にも同じように、時間の流れや記憶の重み、喪失や罪の意識が濃密に漂っていました。
過去に対する贖罪のような苦しみと、それでもなお形を変えて生まれ続ける存在たちへの、複雑な眼差しが込められているように感じました。キーファーは、過去や記憶を単なる「失われたもの」としてではなく、いまもなお私たちを縛り、問い続ける存在として捉えているのだと思います。
さらにはこの作品が「坂本龍一エステイト蔵」と表記されているのを見てムネアツ!!坂本龍一さんはドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』の中でも『ソラリス』を観ているシーンがあり、また、彼のアルバム『async』には、「solari」という楽曲が収録されており、彼自身もこの物語に深く共鳴していたことが伺えます。教授が生前にアンゼルムキーファーと交流があったのかは不明ですが、個人的にはかなりテンションの上がる繋がりでした笑

そもそもなぜこの展示のタイトルが「Solaris」なのか。会場内で直接その意図を明示する説明はなかったけれど、「見えないもの、記憶、無意識の世界に向き合う」といったテーマが流れていた様に思えました。原爆や戦争をテーマにした作品もあり、人類の記憶の中にある喪失や罪を直視するような体験でもありました。
ちなみに、行く前に映画「アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家」を見て予習していったので、この古代の女性たち?の実物が見れて感動。それぞれに名前がついているんですね。彼女たちの囁きが聞こえてくるようでした。お庭にある作品の中の一つ、名前がソラリスでした。庭には出られないのが残念!
二条城という空間で見るというのも素晴らしい体験なので、まだ行けていない方はぜひ!
アンゼルム・キーファー/Solaris
📍二条城
🗓️2025年3月31日-6月22日
🕐️9:00~16:30 (二条城は8:45~17:00)
※入場は閉場時間の30分前まで
休館日:会期中無休
💰️一般2200円/京都市民・大学生1500円/高校生1000円
⚠️別途二条城の入場券が必要⚠️